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札幌高等裁判所 昭和37年(ネ)7号 判決 1967年1月31日

控訴人(当審反訴原告、被参加人――以下控訴人という) 金森健治こと 金鵬奎

右訴訟代理人弁護士 水原清之

被控訴人「当審反訴被告、被参加人――以下被控訴人という) 池田穣

右訴訟代理人弁護士 渡辺敏郎

当審当事者参加人(以下参加人という) 藤本国夫

右訴訟代理人弁護士 山崎小平

主文

本件控訴を棄却する。

当審での控訴人の反訴請求を棄却する。

当審での参加人の各請求を棄却する。

控訴および反訴によって生じた訴訟費用は控訴人の負担とし、参加によって生じた訴訟費用は参加人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

(本訴について)

一、本件土地がもと訴外会社の所有であったことは当事者間に争いがない。

二、被控訴人は昭和二九年一二月一七日訴外会社から本件土地の所有権を譲り受けたと主張するので判断する。

本件土地につき昭和二九年一二月二八日付をもって訴外会社から被控訴人名義に所有権移転登記がなされていることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に≪証拠省略≫を総合すると次の各事実が認められる。

(一)  訴外会社は、昭和二七年一二月頃三協商事株式会社から二〇〇万円余を借り受け、その債務を担保するため、当時訴外会社の所有であった本件土地ほか数一〇筆の土地建物に抵当権を設定していたところ、その後右債務の弁済ができなかったので、昭和二九年一月頃三協商事から抵当権実行のため札幌地方裁判所に右不動産全部についての競売の申立がなされ、競売手続が開始された。

(二)  ところが、右競売手続では競買の申出がなく、次第に最低競売価格が低減し、訴外会社は苦境に陥ったため、昭和二九年一二月にいたり訴外会社の代表者河島善一、三協商事の代表者岸泰ならびに被控訴人の三者間で協議の結果、同月一七日被控訴人が前記競売とは別途に右不動産全部を買い受け、その代金をもって訴外会社の三協商事に対する債務を弁済する方法をとること、右代金額は訴外会社の三協商事に対する当時の借受金債務元利合計額である約四〇〇万円に見合う四一三万円と定めること、代金の支払は、便宜上被控訴人から直接三協商事に訴外会社の債務の弁済として交付すること等を骨子とする合意が成立し、被控訴人はこの合意の趣旨に従い、即日現金八〇万円と被控訴人振出の約束手形を三協商事に交付し、右手形金はその後昭和三〇年三月頃までに決済された。そして、登記手続に関しては、前記岸が売主たる訴外会社と買主たる被控訴人の双方から一任されて必要書類を受け取り、前記のとおり昭和二九年一二月二八日本件土地を含む前記不動産につき被控訴人のための所有権移転登記手続を完了した。

以上の事実が認められ、≪証拠の認否省略≫他に右認定を覆すべき証拠はない。

三、控訴人は、被控訴人は本件土地買受け当時訴外会社の取締役であったから、右売買は商法第二六五条にいわゆる取締役の自己取引にあたるが、訴外会社の取締役会においてこれを承認した事実はないから右売買は無効である、と主張し、被控訴人は、控訴人の右主張は時機に遅れた防禦方法で訴訟の完結を遅延させるものであるから却下されるべきである、と抗争するのでまずこの点について判断する。

本件記録および≪証拠省略≫によると本件弁論の経過は次のように認められる。

(一)  被控訴人は、第一審において当初控訴人と訴外会社を共同被告とし、訴外会社に対しては、被控訴人は昭和二九年一二月一七日訴外会社から本件土地を買い受けてその所有権を取得しその登記を経ていたところ、訴外会社の代表者河島善一が被控訴人の印鑑ならびに委任状を偽造して札幌法務局昭和三一年一〇月一五日受付第三一三九四号をもって不法に訴外会社のため所有権移転登記をなした、としてその抹消登記手続を、また、控訴人に対しては、本件土地の不法占有者であるとして本件建物を収去して本件土地を明け渡し、かつ賃料相当額の損害金を支払うべきことをそれぞれ訴求した。

(二)  これに対し、控訴人および訴外会社はそれぞれ各別の弁護士に訴訟代理を委任して昭和三二年一月一六日の第一回口頭弁論期日以来審理が続けられたが、訴外会社の訴訟代理人は、同年一二月九日の第七回口頭弁論期日に、控訴人本人およびその訴訟代理人も出頭した法廷において、訴外会社と被控訴人間の本件土地の売買が商法第二六五条に違反する旨の抗弁を提出し、これより先同年一〇月二一日の第五回弁論期日における証人岩淵光雄、同月二三日の第六回弁論期日における証人河島正一、同河島はつの各尋問の際にも、右抗弁事実について一応の尋問をしたが、被控訴人と訴外会社間の訴訟は調停に付せられて昭和三三年一〇月二〇日の調停期日に「訴外会社は本件土地は訴外会社が昭和二九年一二月一七日被控訴人に売渡したもの故被控訴人の所有であることを確認する」等を内容とする調停が成立した。

(三)  被控訴人と控訴人間の本件は弁論を分離されて審理されたが、前記訴外会社が商法第二六五条違反の抗弁を提出した経緯に徴すれば、控訴人としても遅くも右段階において訴外会社と同一の抗弁を提出し得べかりしにかかわらず、右主張をしないままその後一四回の口頭弁論を重ね、その弁論期日に控訴人及びその訴訟代理人は殆んど出頭せず、昭和三六年一〇月一七日控訴人敗訴の原判決が言い渡された。そこで、控訴人はさらに弁護士に委任して控訴し、当審においても二一回の口頭弁論が開かれ第一審以来主張した抗弁事実についてのみ証拠調が行なわれたが、その間控訴人からは商法第二六五条違反の主張はなされず、一旦終結後再開された昭和四一年五月一九日の第二二回口頭弁論期日において、はじめて本主張をなすに至った(なお、当審においてはその後四回にわたって口頭弁論が開かれているが、右は昭和四一年五月一九日参加人から当事者参加の申出があり、参加人の訴訟準備および参加人の主張に対する控訴人、被控訴人双方の答弁のために期日が延期または続行されたものである。)。

以上にみたような本件における第一審以来の訴訟の経過によると、控訴人の本主張が、時機に遅れて提出された防禦方法であることは明らかであり、その時機に遅れたことについて控訴人に重大なる過失があったものと推認するに十分である。もっとも、控訴人が当審において援用した証拠の一部によれば、直ちに右控訴人の主張について判断をなし得ないでもないが、前示のように当の訴外会社が争いを止め調停によりこれを解決している事実に加えて、被控訴人は右主張が時機に遅れ且つ訴訟を遅延するものとして却下を求めるとともに予備的に被控訴人が訴外会社の株主総会で取締役に選任され、その就任を承諾した事実はなく登記簿の記載は被控訴人不知の間になされたものであると主張しているのであるから、控訴人の本主張を許すとすれば被控訴人に対してもこれに対する反証提出の機会を与えなければ公平を失し且つそれがために今後なお証拠調のために相当の日数を要し訴訟の完結を著しく遅延せしめることは明白であるから控訴人の商法第二六五条違反に関する主張は民事訴訟法第一三九条に該当するものと認めこれを却下する。

四、控訴人は、昭和二九年一二月一日、本件土地を前所有者である訴外会社から賃借したと主張するが、本件の全証拠によっても右控訴人主張事実を認めることはできないし(≪証拠判断省略≫)、また、控訴人は昭和三一年四月二七日、被控訴人の代理人である訴外会社から本件土地を賃借したと主張するが、当審証人河島善一の証言中右控訴人主張に副う部分はたやすく信用し難く、他に右控訴人主張事実を認めるべき証拠はない。

五、そうすると、控訴人が昭和三一年五月二五日以降本件土地上に本件建物を建築所有して本件土地を占有していること、本件土地の昭和三一年五月二五日当時の賃料相当額が一ヶ月一一一〇円であること、はいずれも当事者間に争いのないところであるから、控訴人は、本件土地の不法占拠者として被控訴人に対し、本件建物を収去して本件土地を明け渡し、かつ昭和三一年五月二五日以降右土地明渡し済みまで被控訴人の本件土地に対する使用収益を妨害したことに基づき一ヶ月一一一〇円の割合による賃料相当損害金を支払う義務があるから、右義務の履行を求める被控訴人の本訴請求は理由がある。

≪反訴、参加についての判断省略≫

(結論)

以上の次第で、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項により、また当審における控訴人の反訴請求、参加人の各請求はすべて理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山孝 裁判官 田中恒朗 島田礼介)

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